The Black Ink Angel
 アークスシップ『ノート』の居住区には多くの人々が暮らしている。
 基本的に住宅も一種の船内設備であり、一部の高い権限を持ったアークスを除いてほぼ全ての人々は多層構造の集合住宅で暮らしている。その部屋の構造は大きくても大部屋3個のベランダが一つ。船内の自然保護スペースに面している場所や、シップ外壁に面して宇宙空間を一望できる場所などに各個人の住居が有る。各人が部屋単位で所有する集合住宅なので、単にマイルームと呼ばれている。
 スヴァトの部屋は吸い込まれそうな漆黒の宇宙空間に面している。そこでは星の光すら微弱で、恒星が見えるほど近い場所になければ常に夜となる部屋だ。故に朝日が登ることはなく、彼女が起床する時間であっても窓から陽が差し込むことはない。
 首筋から電気信号が与えられる。キャストである彼女は人間のように音で起きるようなことはなく、直接起床信号を脳に送信し起床する。まるで機械の電源がオンになったかのように目覚めた彼女は、重い瞼を開ける必要もなく上半身を立たせた。体を暖める必要もないので布団すらなく、それを恋しく思うことすら無い。
「休日か……」
 今日は週3日取ることの出来る休日である。普段は会社で多忙な生活を送る彼女だが、故に休日はしっかりと休息を取る必要がある。人間であればより多く寝ていたいと思うのが常だが、機械である彼女に肉体的疲労はなく、神経の使いすぎも向精神・神経補修メイトの注入で即座に回復する。あくまで彼女にとって睡眠とはメンテナンスの時間でしか無い。
 だが、彼女には睡眠中には行えない重要なメンテナンスがある。スヴァトはベッドから立ち上がり机の引き出しを開けると、徐ろに一本の油性ペンを取り出した。彼女はペンのキャップを開けると、首筋に開いた専用の挿入口にそれを突き刺した。
「くっ……」
 一瞬、彼女の顔が苦痛でゆがむ。彼女は今、体内のフォトンインク発生機構に超高濃縮油性インクを注入したのだ。白かった肌が灰色に戻る。
「もう2本しか無いな……。また買って置かなければ」
 彼女の名前はスヴァト、またの名をマッキーは日々の戦闘で大量のインクを必要とする。フォトンインク発生機構を一度デチューンしたものを再び最大出力で稼働させており、フォトンインク発生源である油性インクの補充は欠かせない。補充したことで顔色がまた黒くなっているのがわかる。
 充填量は日に日に増えていた。多発する企業犯罪に立ち向かうため、休息も休日も返上して戦っている。故に消耗も激しく、インクだけでなく関節のベアリングもこの3ヶ月で4回ほど交換している。しかもフォトンインクに含まれる有機溶剤によって神経へのダメージも大きく、彼女は常に吐き気などの中毒症状に悩まされている。あまり多用できないのはわかっていたが、辛さよりも使命感が優っていた。
 ベッドから立ち上がる。睡眠中は服などを付けないので全裸。すらりと伸びた足が最初の一歩を踏み出す。
 カーテンを開ける。だが広がるのは漆黒の宇宙。輝く星は美しいが、晴れ渡る気分にはならない。そんな雰囲気の中で情報端末から着信音が鳴った。HUDにはボールドと表示されており、彼女は直ぐに応答した。
『おはようマッキー。いつにも増して疲れた顔をしているね、老けるのが早まるぞ』
「余計なお世話よ。で、嫌味を言いに通信してきたわけじゃないでしょ?」
『そうだ。今から画像を送信するからそれを見てくれ』
 端末のディスプレイを手元に展開する。フォトンによって空中に出現した光子ディスプレイ上に、貨物用宇宙船に乗り込む大型トレーラーが映しだされていた。そのトレーラーにはライオンという生物を象ったマークが描かれていた。マークの横には”LION”と記されていることから、これは間違いなくライオンという企業あるいは団体の所有だということがわかる。
『企業データベースでこのロゴを照会した結果、ライオン事務器という文房具メーカーであることがわかった。だがこの企業は100年前に倒産しており、今も存続しているという話はない』
「あからさまに怪しいわね」
『しかもこのライオン事務器という文房具メーカーは特に修正液の分野で業界をリードしていたようだ。最近の違法修正液の流通が増えた時期と、このロゴが描かれたトレーラーがこのシップに行き来し始めた時期が一致しているところを見ると、何らかの形でこのトレーラーが関係しているかも知れない』
 最近、このシップで違法な修正液が流通しているという。その修正液は非常に高い修正力を持つが、故にフォトンペーパーの公文書に記録された情報ですら元の情報を残さず修正してしまう。これほどの性能は悪用される可能性が高く、オラクル船団全てのシップにおいて所持と仕様が規制されている。だが何者かが悪意ある者にこの修正液を供給しているらしく、オラクルは違法修正液の取り締まりをしているのだ。
『アークス警察部にこの情報をリークしたので、トレーラーを載せた宇宙船が入行する今日、ポートから市街地へつながるハイウェイで検問が敷かれる事になった』
「ならいいじゃない。私が出るまでもないわ」
『いや、そう簡単には行かないかも知れないんだ。これを見てくれ』
 画面に映し出されたのは純白のパーツを使用した女性キャストの映像。優雅な流線型で構成された芸術的なボディを持ちながらも、カタナらしき武器を使って大胆に戦闘する様子が収められていた。しかも彼女の他にも数名のキャストがまるでパーティーを組むかのように連携しており、ある施設の警備と思われるアークス達が倒されていた。
『最近、文房具関連の事件において暗躍している謎の女性”ミスノン”率いる戦闘集団、通称”コレクターズ”が今回のトレーラーに護衛として付いているのではないかという情報を手に入れた』
「アンダーグラウンドの武装集団の影か。それは確かに普通のアークスでは対処できないでしょうね。信用出来ないとは言わないけど、手札は多い方がいい。今から検問まで行くわよ」
『君ならそう言うと思っていたよ。ガレージに新開発のフォトンバイクを転送しておいた。検問を突破された場合は必要になるだろう』
 マッキーは光子ディスプレイをオフにして、真っ暗な宇宙を一望する窓のカーテンを閉めた。そして右腕を目の前に差し出しながら言葉を発した。
「フォトンインクジェネレータ・アクティベート。ステーショナライズ」
 スレンダーな人間の体を持っていた彼女だが、フォトンインクジェネレータ起動すると同時にボディが戦闘モードに切り替えられ、インベントリから専用パーツが転送され、瞬時に肉体が文房具化した。黒光りする艶かしいボディ、素性を隠すマスクとバイザー。フォトン溶剤が循環する部位は白く発光し、まさしく彼女は油性ペンとしてのマッキーとなった。
 クラス設定をTeBoに設定し、必要なボディ動作パターンをインストール。武装はウォンドであるキャップウォンドとインクセイバー、高速移動と空中でのアクロバティックな動きを実現するインクジェットブーツ。それに伴いジェットブーツのフォトンアーツ情報もインストールしておく。こうすれば複雑な体の動作もまるで何十年も練習したかのように洗練されたものになるのだ。
 掌に極小さい油性フォトンフィールドを展開する。最も基本的な闇属性油性テクニックであるメギドのエネルギー球を発生させることで、フォトンインクジェネレータの動作確認を終えた。
 彼女は室内に設置した秘密ガレージへのテレパイプを使用し、その部屋から姿を消した。

 時はおよそ正午。ドックからシップ市内へとつながる道路は保安上の理由で一つしか無く、普段は他のシップへ行き来する人々のモビリティが沢山行き交っている。だが今日はドックから市街へ向かうルート0上り線において検問が敷かれたため、ドックから検問までのおよそ1kmは大渋滞となっていた。
 ルート0の側道であるパス0の路肩でフォトンバイクを駐車し、離れた場所から検問を見守っていた。
『動きは有るか?』
「いいえ、かれこれ1時間ね。既にトレーラーがドックを出てきてもおかしくないのだけれど……まって、多分あのトレーラーね」
 2台の白いトレーラーが連なっているのをマッキーの瞳内蔵の望遠レンズが捉えた。そのトレーラーの側面にはLIONとロゴがしっかりと描かれており、資料の写真とパターンの一致を調べると合致することが分かった。まずあのトレーラーに間違いないだろう。
 トレーラーが検問に到着した。ドライバーが警備のアークスから質問を受けており、コンテナの中身を確認する許可を取るようだ。ドライバーはなんの躊躇もなくコンテナのハッチを開け始めた。情報はガセだったようだと安心していたその時、後ろについていたもう一台のトレーラーのコンテナが開いた。すると中から3PT分、つまり12人の武装した白いキャストが現れたのだ。
「検問を力づくで突破するつもりね」
 警備のアークスはアサルトライフルを持って白いキャストたちを制止しようとする。だがキャストたちはそれに応じず、無慈悲にもアークスに襲いかかった。12体のキャストに2,3人程度のアークスでは太刀打ちできず、あっけなく戦闘不能になった。再びキャスト達はコンテナに乗り込み、無人となった検問をトレーラーが通過してしまった。
「あれがコレクターズね。大した戦闘集団だわ」
 マッキーは駐車していたフォトンバイクに跨がった。ルート0への合流車線に突入し、1キロメートル先まで進んでしまったトレーラーに向かって急加速する。インクジェット機関が唸り声を上げ、黒い粒子をまき散らしながらどんどん加速していき、あまりの加速度に前輪が持ち上がるウィリー状態となった。速度はあっという間に時速300kmを超え、トレーラーのすぐ後ろまで接近することが出来た。
 マッキーはアクセルの部分からフォトンバイクにフォトンインクを流し込んだ。この試作型フォトンバイク”シャーボX”はマッキーの協力者であるボールドが、ゼブラの予算を横流しして開発したバイク型導具である。故にテクニックの触媒にも使用でき、高速移動しながらテクニックを発動することが出来るのだ。
「油性サ・メギド!」
 トレーラーのコンテナに向かって黒い帯が伸びた。着弾した箇所はフォトンインクに含まれる溶剤によって侵食され、溶けて穴が開いてしまった。追手の存在に気がついたコレクターズはコンテナを展開し、ランチャーによる爆撃でマッキーを消そうとした。だが機動力にまさるフォトンバイクの動きは、ランチャーの弾頭をパイロンスラロームのように回避している。フォトンバイクからサ・メギドが再び放たれ、コレクターズのレンジャーに直撃。前のめりに倒れコンテナから脱落した。
 だがマッキーも何時までも遊んではいられない。コンテナの中からとてつもなく物騒な武器が登場した。
「フォトン銃座!?」
 非常に強力なエネルギー平気であるフォトン銃座がコンテナに設置されていた。エネルギーの充填は4秒ほどかかるが、爆発半径が大きく、たとえ回避しても爆風によってダメージを貰うのは必至だ。
 フォトンから光が放たれる。着弾、爆発。眩い光が現れ、フォトンバイクを粉々にしてしまった。極めて高い威力を持つフォトン銃座は機械として強化されたキャストさえも破壊してしまうゆえ、アークスに向けて使うのは禁止されている。だが違法な武装集団であるコレクターズにはそんなルールなど関係ない。
 油性ペンはあっけなく消えてしまったかと思われたが、人工太陽に光に隠れて空を舞う影が見えた。インクジェットブーツを履いて空中を飛行するマッキーであった。
「そう簡単に行くと思う? 油性イル・メギド!!」
 インクジェットブーツを触媒に放たれた黒い帯は、まるで飢えた獣のように次々とコレクターズを襲う。真っ黒に染まる彼らのボディは侵食され溶解し、深刻なダメージを与えた。チャンスを逃すことを忘れないマッキーは、彼らの防御が低下している隙を突き、接近戦を挑むべく急接近した。インクジェットブーツから多量のインクが吹き出す。
 まるでカポエイラのようなアクロバティックな足技。触媒でありながらその推進力をもって蹴撃武器として機能するインクジェットブーツは、そのものが物体を侵食するフォトンインクを撒き散らし、コレクターズのキャストたちに強力な一蹴を与えている。彼らはコンテナーから蹴飛ばされ、道路に落下した。
 マッキーが立つコンテナーには何もなかった。このコンテナーには護衛のみが搭乗していただけで、本命はもう一台のトレーラーが牽引しているコンテナーである。マッキーはそのまま2台目に飛び移り、コンテナーの中身を確認するため、溶断して穴を開けるためのインクセイバーを装備する。
 しかしその時、背後に殺気を感じた。マッキーは直ぐ様その身を翻し、音速で振られた一太刀を回避する。彼女の後ろに立っていたのは、これもまた純白の女型キャストであった。
「まだ命知らずが居るようね」
「それは誰のことを言っているのですか?」
 白い刀身の奇妙なカタナを構えるキャスト。刃先を左手で強くつまみ、しなった樹の枝が戻るような弾みの力で音速の斬撃を実現する。幸い軌道は単純なので回避することが出来たが、動作を見逃してしまったら最後、その斬撃はマッキーを真っ二つにして使えなくするだろう。高速で移動するトレーラーがけん引する足場の悪いコンテナの上で、切るか切られるかのシビアな戦いが繰り広げている。
『インクセイバー、アクティベート』
 マッキーはインクジェットブーツを装着したままインクセイバーを装備した。蹴撃と同時にインクセイバーによる塗撃を加えるという高度な芸当をやってみせた。
「なるほど、素晴らしい応用力ですね」
 白いキャストはまるで空中で舞う落ち葉のような身のこなしで、インクセイバーとインクジェットブーツの複合攻撃をいなしていた。
「フォトンアーツのインストールシステムなしにこの身のこなし。中々興味深い戦闘システムをインストールしたようですね、マッキー」
「貴様、何故あたしを知っている!?」
 マッキーは今までの一度もメディアに露出しておらず、標的は確実に始末してきた。何処で名乗るわけでも無いのにそのキャストは知っていたのだ。
「人型戦闘用文房具、フォトン溶剤侵食型油性ペン”Mckee”。私の中では2番目に美しい文房具よ」
 キャストは容赦なくマッキー斬りかかる。マッキーはその刃をインクジェットブーツでガードしながら、一瞬の隙を突いてインクセイバーで斬りかかった。回避が間に合わないと判断したキャストはカタナでガードすることを試みるが、インクセイバーはあらゆる物を強力な有機溶剤で溶断できる。それはカタナも例外ではなく、まるで発泡スチロールに油性ペンで線を書いたかのように溶けてしまった。
「殺しはしない。貴様は手足を取り外したうえで拘束させてもらうわ。あとでじっくり尋問してあげる」
「勝った気で居るのは早くてよ」
 捨て台詞の後にサイレンが鳴り響く。激走するトレーラーの後ろから銃座付きの車が追走してきた。アークスの警備部隊が追跡してきたのだ。彼らはトレーラーに即時停止するように呼びかけている。
『止まれ! 命令に背けば撃つ!』
 白いキャストの口元がニヤリと笑った。次の瞬間、トレーラーが急ブレーキをかけ、マッキーはトレーラーの進行方向に勢い良く突き飛ばされた。合金製のボディが火花を散らしながら路面を滑る。
 トレーラーはその後完全停止し、白いキャストが立っているコンテナは警備部隊に包囲された。
『以外に素直だな。よし、コンテナを開けて中を見せろ』
「これはパンドラの箱です、何が出てきても知りませんよ」
 白いキャストはコンテナの開閉ボタンを押し、コンテナはダンボールが解体されるように展開され、中に入っていたタンクが現れた。そのタンクには透明な素材が用いられており、内容物は乳白色の液体だった。だが次の瞬間、その液体に異様な動きが現れる。次の瞬間、大量の気泡がタンク内に発生した後、タンクがトレーラーを巻き込んで大爆発を起こし、辺り一面に白い液体がぶち撒かれた。その液体はアークスの面々にも降り注ぎ、彼らは全身は白いペンキをかぶったように真っ白になってしまった。
 爆発の衝撃で倒れていた彼らが続々と起き上がる。追っていた白いキャストは爆発によってバラバラになってしまったようだ。
「自爆か……?」
 だが、起き上がったアークスのキャスト達は全く理解できない行動をとった。持っていたアサルトライフルの銃口を、マッキーの方へと向けてきたのだ。そして警告すら無く弾丸を発射する。
『残念だけど貴方には消えてもらうわ』
 全員が同時に、そう口にした。全く不可解な状況だがとにかく回避が優先で、マッキーは銃弾の嵐から逃れるために近くに停まっていた車影に隠れた。
「一体何!? あいつら、あの白いキャストに何をされたの!?」
 狂ったアークスはあろうことかランチャーを装備してクラスターバレットを発射した。本来であれば警備のアークスが市街地で爆発物を容赦なく使うことはないのだが、彼らはそんなことお構いなしに重火器を惜しみなく使ってきた。これはもはや狂気に憑かれたとでも言う他ない。
「……まさか、あの白いキャストに操られている!?」
 あの白い液体がアークスを狂わせているようだ。その仮説に基づき、マッキーは運良くそばに通っていた太い水道パイプをインクセイバーで傷つけ、高圧の水を周囲にまき散らした。大量の水が狂ったアークスに降り注ぐが、白い塗料らしきものが流れ落ちることはなかった。
『無駄よ。これがコレクションフルードの力、一度乾いた修正液は落ちないの』
「やはり貴様が操っているのか!? 彼らを開放しろ!」
『あなたを修正したらね』
 マッキーは苦渋の決断を下した。操られている彼らではあるが、このまま彼らにやられる訳にはいかない。故にフォトンインクの浸食作用を使って彼らの機能を停止させるほかなかった。
 彼女はフォトンインク爆発を発生するキャップウォンドを装備し、隠れていた車から飛び出してアークスの集団に突撃した。
「フォトンインク帯電! 油性ゾンディール!!」
 ウォンドの先端に強力な力場が発生した。その力場は範囲内の物体を引き寄せる働きがあり、中心部に狂ったアークス達が団子になるよう引き寄せられ固まった。そしてマッキーはキャップウォンドの先端を勢い良くそのアークスに叩きつけ、衝撃をきっかけに油性フォトン爆発を発生させた。それも飛びきり強力な爆発である。
 地響きのような轟音とともにウォンドの先端にインクが収束、圧縮され、衝撃により開放される。その開放と同時に爆発が発生し、狂ったアークス達に満遍なくフォトンインクが塗り広げられた。
 真っ白だったキャスト達が、一瞬にして真っ黒に塗られた。同時にフォトンインクの侵食を受けることでフォトンの活性化が停止し、多くの箇所が破損して機能が停止した。
 マッキーは文房具なので息を荒げる事はない。だがもしも彼女がまだ人間として戦っていたのなら、息を切らしていたところであろう。同じく狂ったアークスの全員がキャストだったため、パーツの損傷のみで致命傷には至らなかったが、破壊してしまった事実は変わらない。
 見ると辺り一面は修正液と油性インクで白黒にまだらとなっていた。結果的に違法修正液の密輸は阻止されたが、これほどの被害が出ればオラクルも本腰を入れて対応することになるだろう。それは無許可で戦闘行為を行っているマッキーもまた同じことだ。
「私は……油性ペンよ。それが何であろうとも塗りつぶさなくては……」
 影の油性ペンは街の暗がりへと消えていった。この事件が後に、オラクル船団全体を巻き込んだ未曾有の危機に発展することを彼女は知らなかった。
 少なくとも、今は。

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