MONOは定期メンテナンスのために、トンボ鉛筆株式会社アークスシップ営業部の実験施設へ来ていた。彼の体は金属製の専用ベッドに固定され、無数のケーブルが接続され中身のデータが確認されている。すぐ近くのコンソールを操作している男は主任と呼ばれる男で、消しゴム型HBSプロジェクトの開発責任者である。名前はヨック=キエールというそうだが、MONOは彼のことを単に主任と呼んでいる。
「調子はどうだ、MONO」
「良好だ。強いて言うなら動けなくてつまらない」
「ははっ、違いないな。私だったら君のように、肉体を失っても戦いたいとは思わないね」
「仕方ないだろ、まだ諦めきれないんだ。まだ俺にはやり残したことが有るような気がするんだ……」
 全身を機械化した男がそんな熱いセリフを言うと、まるで人工知能を搭載したロボットがそんな事を言っているように聞こえて少しばかり面白い。しかしながら彼の頭脳は正真正銘の人間である。
「そうそう、これを見てくれ」
 主任はディスプレイにとある広告を表示した。そこにあったのはZEBRAという企業のロゴと、美しい造形をした黒いキャストの姿であった。
「先日君が出くわしたというマッキーという女性形キャストは、ZEBRAがついさっき発表した新型のキャストだった。描けてしかも戦える人型戦闘用文房具だ」
「HBSを開発していたのはトンボ鉛筆だけじゃなかったのか?」
「別に我々だけがHBSに力を入れているとは思っていなかったさ。厳しい境遇に置かれた文房具業界が考えるのは事業のシフト、考える事は一緒ということさ」
 今、文房具業界は危機に貧している。
 この宇宙進出の時代では鉛筆やペンを使って筆記することはなく、全ての知的作業はコンピューター上で行われている。つまりそれは文房具が消費されないということであり、過去には数百社以上あった文房具メーカーは統廃合を繰り返し、今やトンボ鉛筆株式会社とゼブラ株式会社しかこのアークス船団には残っていない。その両社が供給する製品も極めて限られた需要に対するものであり、ゼブラはアークスが惑星でマーキング等に使うマーカーを、トンボ鉛筆はアナログ派芸術家向けの消しゴムを販売している。ラインナップには修正液や鉛筆などがあるが、今やそれだけである。
 そこで開発されたのが人型戦闘用文房具である。これは文房具メーカーにとってはまたとない商機だった。
「まあこのタイミングでHBSを出してきたというのは明らかにこちらを意識したものだろう。……だが気になるのがあのマッキーの能力がアークスにとってふさわしいものかという疑問だな」
「惑星調査こそが本来のアークスであるはず。なのにマッキーは全てを塗りつぶし、環境に深刻な影響を与えるようだ」
「そこで開発者がどんな奴なのかを関連特許から調べてみたんだが、これを見て納得したよ」
 次にディスプレイに表示されたのはとある男のプロフィール。銀色の長髪に髭を生やした中年だった。
「彼の名前はペンシル。これが本名かは分からないが、研究部ではドクターペンシルと呼ばれていたとか」
「研究部……ヴォイドか」
 ヴォイドはアークスの研究機関であり、惑星調査を主たる目的とするアークスにとって実質的な権力中枢である。そこには各分野の超優秀な研究者たちが集められているとされ、そのドクターペンシルはヴォイドに居たというだけで何らかの分野で飛び抜けた実績をあげていたと推測される。
「しかし3年前にヴォイドを離脱。今はゼブラ株式会社の商品開発部に居るらしい。つまりマッキーを作ったのはヴォイド出身の研究者で、どんな奇想天外な手を使ってもおかしくないということだ」
 主任はコンソールを閉じてMONOを固定していたハーネスを解除し、接続されていたケーブル類全てを取り外した。
「調整は終わりだ。今日は任務は?」
「事務作業だけだ。前回の出撃の報告をしておかないとな」
 MONOはボディーパーツを人型のものに換装し、トンボ鉛筆本社ビルをあとにした。

 アークスシップ18番艦『ノート』の天候設定は晴れ。居住区の人々は老若男女問わず、外に出て日差しを浴びている。事務作業を自宅でやっても良かったのだが、今どきの働き方は時を場所を選ばない。よって彼は心地よい陽気のもと、会社の近所にある公園で作業することに決めた。
 ナベリウスで採取されアークスシップに住み着いたと言われるナベリウスハトに餌をやる老夫婦。飼いならされたガルフとボール遊びをする子どもたち。それを見守る夫婦の夫はたくましい体から想像するにアークスとして働いているのだろう。MONOはそんな人々が笑顔を振りまくこの公園が好きだった。
 事件は突然に起こった。MONOが報告書を書き終えてそのデータをサーバーにアップロードしようとしたところ、見慣れないエラーメッセージが表示された。
「ん、容量が足りません?」
 ネットに接続できないとか、パスワードが違うとかのアラートならまだわかる。これが意味するのはサーバーの容量が逼迫しているという話だ。しかし現代のストレージ技術は極めて高度なもので、数百ヘクサバイトのストレージを数千というサーバーが持っているので、ましてやアークスの報告書管理サーバーなどという大規模なシステムが容量不足に陥るなどは考えられない。
 ふと周りを見渡すと、写真を撮ろうとしている家族がなにやらあたふたとしているところを見かける。優しい消しゴムであるMONOはすかさず彼らに声をかけた。
「どうしましたか?」
「ああ、いえ、写真を撮ろうとしたら端末の容量が足りないと出てね。そんなはずはないんだが……」
 MONOのゴムが震えた。あらゆる電子機器のストレージが満杯になっているなどということは到底考えられない。どう考えてもおかしいと思考を巡らせていたところ、耳をつんざく警報が鳴り出した。
『緊急事態発生! アークスシップNOTE周辺に多数のダーカーが接近! 同時にアークスのコンピュータシステムに異常が発生中。全ての情報端末のストレージが満杯となっているため、以後の連絡は全て紙とペンで行う。各自――』
 アナウンスが途切れた。警報発令システムにも何らかの異常が発生しているようだ。
 ストレージが使えないということはすなわち、あらゆる情報システムが機能しないということだ。そしてあらゆる情報システムが使えないということは――
「時代は紙とペンの時代に戻ったということか!?」
 MONOは人型モードを解除し、保護ケースバリアーをオンにした。警報発令は少なくとも15分前には行われるので、ダーカーの到着まではあと10分ほど余裕がある。しかし通常はコンソールでダーカーの予測侵入経路が見れるはずなのだが、今回はそれを使うことが出来ない。情報にアクセスする事ができないのだ。
 ふと気が付くと空から無数の紙が降ってきた。輸送機が空中から紙をばらまいて飛行していたのだ。MONOはそれを手に取り見てみると、今丁度欲しかったダーカーの経路などの作戦に関わる情報が記載されていた。アークス司令部は通信機器による伝達を諦め、紙による伝達に切り替えたようだ。
 彼はダーカーがシップに進入すると思われる場所で待ち伏せすべく、まるでゴムを滑らす速度で走っていった。

 現場では既にダーカーの第一陣が侵入しており、多数のアークスがそれに対応していた。
「みんな、遅れてすまない!」
「MONO! 助かったぜ、早くこいつらを蹴散らしてくれ!」
 MONOは勇敢にもダーカーの群れの中へと飛び込み、パルチザンゴムによる広範囲打撃攻撃を行った。高い消去性能を持つフォトンゴムにより、ダーカーはたちまち消え去っていく。しかしながらダーカーは次から次へと侵入してくるので、いくら消してもきりがなかった。いわゆるハンターというクラスはあらゆる状況に対応できると言われているが、基本的には大型のダーカーを仕留めるのが本来の役割であり、無数の小型ダーカーを相手にするのは若干不利なのである。
 そんな中、彼女は登場した。
「アーハッハッハッハッハー! そこを退きなさい消しゴム」
「その声は!?」
「頭が高いぞアークス共! 最強油性ペンであるマッキーが全てを塗りつぶすわよ」
 他に戦っていたアークス達がマッキーを見て目を丸くした。
「あれは”黒き油性の天使”、マッキーじゃないか!? すごいぞ、ここに船団最強の文房具が同時に現れるなんて!」
 噂の新型HBSマッキーが真っ黒なウォンドを持ってダーカーの群れに突撃。磁場を作って敵をまとめるゾンディールを使ってダーカーをまとめると、その塊目掛けてウォンドを力強く振り下ろした。するとウォンドが接触する瞬間に大量のインクを吹き出し、闇のフォトン爆発によって大規模な砲撃爆発が発生。ダーカーは大量のフォトンインクを浴びつつ爆散した。対多数における殲滅能力はマッキーの方に圧倒的なアドバンテージがあったのだ。
「ぼうっとしてるんじゃないよ消しゴム。あんたはあのデカブツをやっておしまい」
 マッキーが指さしたのはキュクロナーダと呼ばれる中型ダーカー種。高い耐久力と攻撃力を備えるダーカーである。
「分かった。小物は君に任せよう」
 MONOはナックルゴムを装備。キュクロナーダの懐まで一気に飛び込み、強烈なバックハンドスマッシュをお見舞いする。コアを保護している外皮が破壊され、露出したコアにフラッシュサウザンドによる連撃を加えた。そしてフォトンゴムが削れて拡散すると同時にダーカー因子を吸着、ゴムと因子が合わさって消滅することでキュクロナーダの体は一瞬にして消え去った。
 後方からサイクロネーダのハンマーが飛来する。MONOはそれをナックルのままキャッチし、逆にサイクロネーダを振り回してみせた。ワイヤードランスのPAであるアザーサイクロンの要領で、そこら中にぶつけてダメージを与えながら、最後は天高くサイクロネーダを投擲した。地面にたたきつけられて両足が破損したそれに、高高度ジャンプからのクエイクハウリングで粉砕する。
「やるじゃない、消しゴムの割には」と、マッキーはマスクの下で微笑んだ。
 しかし、その微笑む一瞬の油断が敵に隙を与えた。
 超遠方に赤い光が収束した。それを見たMONOは瞬間的にカメラをズームし、それがダーカー『カルターゴ』の一団である事を確認した。あろうことかカルターゴは3体ほどまとまっており、その3体が同時にエネルギービームを充填していたのだ。標的は位置関係からしてマッキーであり、もしも3体同時の攻撃に彼女が晒されたならば、普通のテクタークラスキャストであればもたないだろう。一瞬にして様々な思考が巡った結果、MONOは声をかけるよりも先に足を動かしていた。
「危ない!!」
 MONOはその体を盾にした。マッキーのマスクの下に隠れた瞳孔は開き、もはやかくはずの無い冷や汗がどっとでる感覚を覚えた。動機が早くなる間もなく、MONOは3体同時のビーム照射を直撃した。
「MONO!? あんた何してっ――」
「四の五の言わずに反撃しろ! 第2射が来る!!」
 再びのエネルギー充填。マッキーはウォンドをカルターゴに向け、テクニック『油性ギ・メギド』を発動した。真っ黒な3本の帯がカルターゴのコアに突き刺さり、ダーカーさえも逆侵食するフォトンインクが赤かったコアを真っ黒に染め上げる。そして組成を保てなくなり、カルターゴは蝋燭の様に溶けた。
「MONO! 大丈夫!?」
 彼の体を修復したいところだが、マッキーはテクニック『レスタ』を使うことが出来ない。何故ならば彼女の用いる全てのテクニックには浸食作用のある油性フォトンが含まれており、それは人体にも機械にも有害であるからだ。
 MONOの体表面は高温で溶解しており、背部の装甲と見られる部分は完全に無くなっていた。人間で言えば背部は完全に骨だけとなっていたのだ。しかし、彼はまだ立ち上がることが出来る。
――あの時とは違うのだ。
『Plastic Eraser MONO. 背部フォトンゴム残量3%、オートゴムチャージ開始』
 MONOの体から白い樹脂のようなものがにじみ出てきた。その樹脂こそ彼の体を構成する最強の素材であり、ダーカー因子を消去することの出来る攻守最強の新素材『フォトンゴム』である。彼の体はあっという間に修復され、背部装甲はダメージをうける前の状態にまで戻った。
「心配してくれてありがとう。存外、君も涙を流すのだな」
「えっ」
 マッキーは頬に滴る黒い雫があることを知った。眼球型カメラを洗浄する専用インクがオーバーフローしているようだった。よく見るとMONOの顔面を覆っていたカバーが破壊されており、その内側には人間の顔が覗いていた。キャストとは元人間のサイボーグを指し、ボディの何処かに人間だったことの名残として生体部分を残すことはよくある。だが重要なのはその顔が、彼女にとって忘れ用にも忘れられない顔だったのだ。
 彼女はMONOを知っていたのだ。
「違うわ。これは洗浄用インクで、人間だった時のような涙とは本質的に違うのよ」
「はあ。ZEBRAのHBSには面白い機能が付いているんだな」
「でも、ありがとう。危うく書けなくなるところだったわ」

 数時間の激しい戦闘の末、ダーカーの猛襲は小康状態となった。しかしこれはアークス本部からの通達ではなく、あくまで現場での判断に過ぎず、広域レーダーを用いての正確な判断が作戦終了宣言には必要なのである。
「本部からの通信がない。回線の帯域までパンクしているらしいな」
「アークスのシステムがここまで脆弱とは思えない。しかもそこにダーカーの襲撃だなんて」
 マッキーも情報端末を開いて確認するが、相変わらずエラーメッセージが止まらない。流石のキャストも臨戦態勢で居ることに疲れてしまったのか、鉛のように思いウォンドを腰に下げ、瓦礫の上に足を組んで座った。すると彼女は頬杖をつきながらMONOに話しかけた。
「あなた、5年前のアークスシップ17番艦陥落のことは覚えてる?」
「よく覚えているよ。10年前のシップ陥落に匹敵する規模の被害だった」
「私はそこで肉体を失ってしまった。幸いにして脳神経は無事だったから今はHBSとして生きることができている。で、あなたも体を失った口でしょう? どこで失ったの?」
「……偶然にも同じく5年前にシップ17で失ったらしい。逃げ遅れた少女を助けようと覆いかぶさって庇ったが、ダーカーの攻撃は俺の体を貫通し、少女も重症を負ったと聞く。大半の記憶はその時に失われたが、あの時に絶望に打ちひしがれたあの娘の顔は今でも覚えている」
 その時、マッキーはおもむろに顔の大半を隠していた防護マスクを外した。MONOは彼女の素顔を見た瞬間、あるはずのない瞳孔が全開になるような感覚を覚えた。
「その娘って、こんな顔をしてたんじゃない?」
「……君は!?」
 その顔は確かにMONOの記憶に刻み込まれたあの形で、肌の色はフォトンインクによる浸食作用で変色しているものの、それは確かにあの時の少女だったのだ。そう、彼女こそが生前のMONOが守り切ることが出来なかったあの少女だったのだ。
 マッキーは手に持ったウォンドを素早く構え、MONOにその切っ先を向けた。テクニックを発動しようとしているのか、闇のフォトンが先端部に収束している。
「……あなたが、もっと強ければ! 私はこんな体になる必要はなかった! あの時あなたが私を庇うことさえなければ、私はこんな機械に支配されることもなく、こんな計画に加担すること無く、死んで消えれたのに!!」
 MONOは呆然と立ち尽くした。奇跡の再開に喜ぶ暇もなく、彼女から怒号を浴びせられたのだ。かつて守りきれなかった者から憎悪に晒されてしまい、ただただショックだった。機械の体では涙を流すことも出来ない。ただひたすらに悔しさと、彼女が生きていたということによるほんの少しの安堵がさらに彼を苦しめた。
「……守れなかったことをとても後悔している。全ては俺の責任だが、君が生きているようで良かったとも、思えるんだ」
「これの何処が生きているというの?! 毎日インクを飲まなければ生きていけないこの体で、更に多くの犠牲を生む計画のためにアイツの奴隷になったこの私が、何を持って――」
 MONOはマッキーを抱きしめた。黒い涙が頬をつたい、泣きじゃくりながら訴えかける彼女をなだめるには、行動で示すしかなったからだ。
「本当にすまない……」
「……違う、違うの、私は本当は貴方にこんなことを言うために仮面を取ったわけじゃないの。貴方のことは確かに憎いけど、それは貴方のせいじゃないってことくらい解ってたはずなのに……」
 MONOを抱きしめ返すマッキー。真っ黒なインクがMONOを侵食していたが、MONOはそんなことはお構いなしにまた彼女を強く抱き寄せた。
 だが奇跡の邂逅は終わりを告げる。ふと彼女の背後を見ると、二人を見つめる謎の人影があった。白髪の老人が白衣を着ており、鋭い眼光をマッキーとMONOに向けていた。警戒警報が発令されているこのアークスシップには任務中のアークスくらいしか残っていないはずなのに、彼はとてもアークスには見えない風貌をしている。
「余計な事を喋っていたようだな、マッキー」
 マッキーの方がびくんと震えた。まるで何かおぞましいものが近くに現れたかのような怯え。彼女はゆっくりと振り返り、白髪の老人と目を合わせた。
「ドクターペンシルっ……!」
 MONOはこの午前中に聞いたばかりの名前を聞いた。主任に説明を受けたヴォイド出身のZEBRA所属研究者であり、HBSマッキーの開発者であるドクターペンシルがその老人であった。
「いいえ、私は何も話してなど……」
「自分の発現を塗りつぶして無かったことにする機能は実装してないんだがね。私がその気になれば思考ログを解析してそれを嘘と見抜くことなど簡単なのだよ?」
 ペンシルはコンソールを開き、何やら操作をした。するとマッキーが悲痛な叫びを上げだした。
「ああああああああああああああっああああああ!!!」
「マッキー!? どうしたんだ!?」
「MONO……助けて……ZEBRAはダーカーを――」
 もがき苦しんでいたマッキーの動きが、糸の切れた操り人形のようにピタリと動かなくなった。すると手に持ったウォンドを再びMONOに向け、躊躇せずにテクニックを放った。
「油性イル・メギド」
 MONOは間一髪のところで回避したが、彼は重大なミスをおかしていた。イル・メギドは極めて追尾性の高い高速闇エネルギー光線であり、一度回避したくらいで直撃を避けられるものではなかったのだ。
「ぐあぁあああああ!」
 MONOの背後からUターンしてきた油性フォトンインクが彼の体を真っ黒に染め上げた。通常の闇テクニックであれば物理的なダメージで済むはずだが、フォトンインクテクニックは電子機器に深刻な影響を与えるようで、MONOのHUDは無数のエラーメッセージでうめつくされた。
「トンボ鉛筆のMONOと言ったか。貴様には特別に話しておこう」
「貴様……何をするつもりだっ!?」
 運動神経系が異常を起こして立ち上がれないMONO。ペンシルは自慢気に話を始めた。
「アークスのシステムを攻撃したのはこの私だ。私の発明したフォトンインクは、あらゆる複雑系システムを侵食し作用することができる。それはアークスの量子コンピューターだけでなく、ダーカーの制御もな」
「なん……だと?」
「私は大量のフォトンインクで惑星を塗りつぶし、全てのダーカーを制御下に置く巨大油性ペンを開発した。だがそれの本当の目的はダーカー殲滅ではなく、アークス全体、マザーシップを私色に染め上げることなのだよ」
「貴様は我々を染めてどうするつもりだ」
「君は想像したことがあるかね? 紙と鉛筆の世界を! 鉛筆の削りかすが放つあの香り、消しゴムのあのやわらかな感触、筆を執り手紙で文通し、今か今かと手紙が届くのを待ったあの高揚!」
「まさか……」
「そうだ、私はこの宇宙時代など捨てて、全てを紙とペンの時代に戻すのだ!!」
 マッキーが再びテクニックをチャージしている。次またフォトンインクを浴びたら、流石のMONOでも全ての機能を停止せざるをえないだろう。彼の体の周りに展開されたテクニックフィールドから察するに、そのテクニックは全テクニック中最高の威力を誇るナ・メギドの亜種、すなわち油性ナ・メギドだろう。
 MONOが諦めかけたその時、上空からテレパイプ降ってきた。テレパイプは衝撃とともに展開される。MONOが上を見上げると、底にはトンボ鉛筆のロゴが描かれた輸送機が飛行していた。
「マッキー! やれ!」
 MONOは最後の力を振り絞ってテレパイプに接触。ナ・メギドのフォトンインクが爆発する瞬間とほぼ同時に、トンボ鉛筆のキャンプシップへと移動した。
「ふむ、失敗のようだな。まあいい、計画はすでに始まっている。今頃ナベリウスは真っ黒に塗り上げられているところだろうな」
 ドクターペンシルの不気味な笑い声が市街地に轟いた。