新光歴23X年。文房具メーカーであるトンボ鉛筆株式会社は、オラクル船団と共に宇宙進出を果たした。
 しかしあらゆる事務作業が筆記ではなく電子デバイスによる入力になった現代では、文房具は全く売れずに業績は悪化の一途をたどっていた。そこに現れたのは一人の消しゴム、それは圧倒的な消去性能でダーカーを抹消し、業界に新たな可能性を示したのだ。その人型戦闘用文房具プラスティックイレイザーMONOがアークスに制式採用され、早くも3ヶ月が経った。
「今日もちょろい任務になりそうだぜ」と、男ニューマンのテクターがナベリウスの森林地帯を歩きながら、パートナーのフォースニューマンの女性に話しかけた。
「このエリアは原生種の凶暴性も薄いし、最深部に辿り着くまでさほど時間はかからないでしょうね」
 そこで話を割って入ったのは男ヒューマンのハンター。
「そうでもない、これでもH指定のエリアだ。最近この星で新種のダーカーが目撃されたらしい。ナベリウスで新たに発見された遺跡エリアから来たとされているが、詳細はわからない」
「ダーカーか。ちょっと待て、さっき妙な音がしたんだがもしかして」
「おい、なんで報告しなかった! それはダーカーのテレポートノイズだ!」
 ハンターがそう叫んだ瞬間、上空に空間振動が発生。耳をつんざく音とともに黒い位相空間が発生し、その穴は急激に広がってしまった。その中から落ちてきたのは巨大な人型の黒い物体。
「まずい、こいつだ! タイプの特定を急げ!」
「了解! 映像を照合、ウォルガーダです!」
 あまりに大きな泣き声にアークスのパーティーは全員その耳を塞いだ。しかしそれが大きな隙を作り、ウォルガーダはすかさずフォースを殴りつけた。数十メートルを勢い良く吹き飛ばされ、防具の衝撃吸収で一命は取り留めたが左足を骨折し戦闘不能となった。
「おい、大丈夫か!?」
「くっそ、目を離すな。とりあえず距離を――」と、指示をしようとした。
 しかし時は遅かった。二発目のパンチがテクターに直撃。同じく数十メートルを吹き飛ばされ、デバンドによる防御限界を超えて負傷。戦闘不能となった。
「畜生、よく見ればこいつ、花咲きじゃねえか。だめだ、撤退しなければ……っ」
 ハンターがテレパイプを起動しようとした瞬間、焦ってそれを落としてしまった。それでも襲いかかるウォルガーダ。激しい攻撃をなんとかガードで乗り切るが、既に武器の耐久値は限界を迎え、強い衝撃を受け続けたソードはくの字に折れ曲がっていた。
 ここまでかと諦めかけたその時、空から一筋の光が伸びた。ウォルガーダのコアにソードが突き刺さる。
「青は自由、白は未来、黒は決して染まらぬ固い決意!」
「あなたは……っ、まさか!」
 3人が口をそろえて彼の名前を読んだ。
『プラスティックイレイザーMONO!!』
 青と白と黒のボディが輝く文房具。彼がウォルガーダと3人のパーティーの間に割って入ったのだ。
「大丈夫か君たち!? 怪我はないか!?」
「全員負傷している。これ以上は持たない」
「分かった、負傷者の手当を頼む。こいつは俺一人でやる」
 MONOは武装をナックルゴムに変更。目にも留まらぬスピードでウォルガーダに接近し、強烈な一撃をお見舞いする。しかし的はウォルガーダそのものではなく、それの胸部に突き刺さったソードイレイザーである。その柄を思い切り殴ることで更に深くへと突き刺さり、あろうことかウォルガーダの体を貫通してしまった。より一層大きい唸り声が響いたが、ノイズキャンセル機能標準搭載のMONOには全く問題ではない。
 ウォルガーダ、爆散。散らばったそれの四肢は、赤黒い煙を上げながら昇華した。
「ありがとうMONOさん! とりあえずこれ以上の探索は出来ないから、俺達は撤退するよ」
「それがいい。あと、トンボ鉛筆のMONO消しゴムをよろしく」
「ああ、絶対に買うよ!」
 テレパイプを起動し、負傷した仲間を引き連れてそのパーティーは帰還した。
 そこは既に最深部の一歩手前であり、MONOはもののついでに最後まで踏破することにした。地面に刺さったソードイレイザーを引き抜き、フォトンゴムを保護する専用鞘に仕舞った。その時だった。
「……紅い霧!?」
 ウォルガーダが昇華したあたりの地面から、紅い霧が立ち上っていた。それはやがて塊のように集まり、ダーカーの侵食核の形状を成した。そしてあろうことか、侵食核は近くに徘徊していたロックベアの頭部に勢い良く突き刺さり、その意識を乗っ取ってしまった。ダーカーによって凶暴化したロックベアは狂ったような声を上げ、MONOに向かってボディープレスを試みた。
「消しが甘かったか。ならば再び消すまでのこと」MONOはソードイレイザーを再び装備した。
 しかし、それが振るわれることはなかった。MONOの後方から音速で通過した黒い帯が、ロックベアの足に直撃した。真っ黒な爆発を発生させ、ロックベアはバランスを崩して倒れた。それだけではない、爆発範囲のロックベアの足や地面そのものが、真っ黒に変色していたのだ。
「テクニック?! サ・メギドか、いや、あれは爆発しない! 何だ!?」
「そこをどきなさい、使えない文房具」
 声のする方に立っていたのは一人のキャスト。形状から察するに女性形で、カラーリングは漆黒、白いラインが申し訳程度に入っている。顔はマスクで隠れており、肌色さえ黒。それはどこかで見たような色の構成で、それが何処かは右肩に描かれた企業ロゴを見ることで判別することが出来た。そこには確かにZEBRAと書かれていた。
「今のはサ・メギドではない。油性メギドだ」
「お前は誰だ。一体何を使った?」
「我が名はマッキー。ZEBRA株式会社が開発した、お前と同じ人型戦闘用文房具だ」
 彼女はZEBRAの油性ペンであるマッキーをベースにした人型戦闘用文房具であった。そのカラーリングは確かのあのマッキーで、既視感は職場で使っていたものから与えられたものだった。
「黒に染まれ、油性サ・メギド!」
 マッキーは同じく真っ黒なウォンドを一振りして、極太のサ・メギドを打った。MONOをまるでいないものであるかのような弾道であったが、MONOは超人的反射神経でそれを回避。身動きの取れないロックベアには全弾命中。着弾箇所はやはり黒く変色した。
 すかさずステップで接近したマッキー。その黒光りする太くて長めのウォンドで、ロックベアをめった打ちにする。ウォンドギアシステムにより油性フォトンのエネルギーが殴打された箇所に大量に流れ込み、臨界点を超えて大爆発。ロックベアどころか周りの木々も真っ黒に染め上げた。
「もういい! 後はこのソードイレイザーで侵食核を攻撃すれば、宿主は無傷で救出できる!」
「甘いわ。消し残しが発生する可能性がある」
 既に原型をとどめていないアロナガーダの上で、マッキーは別のテクニックを詠唱し始めた。
「フォトンインク充填。滴れインク、塗りつぶせ黒に! 油性ラ・メギド!」
 巨大なインクのしずくがマッキーの周辺に発生。ひどく有機溶剤臭い大粒のインクが、辺り一面にぶちまけられる。そのしずくがまるで無限にあるかのように大量に降り注いだ。既に破壊されていたロックベアの組織全てがインクの侵食を受けて溶解した。確かにその消去性能は強力で、ダーカーの反応は完全に消えていた。だが、一面は強烈な異臭に包まれ、ロックベアは木っ端微塵となった。
「所詮は消しゴム、貴様は取り除くことしか出来ない。しかし私のフォトンインクは、あらゆる物体を侵食し、分子構造を変質させる」
「助けられる命は助けるべきだ! お前の攻撃は強力すぎる!」
「再び脅威になるならば処分する。我々の目的であるダーカー消去のためならば必要な犠牲よ」
 MONOは我慢ならなかった。確かに消去性能ではMONOを上回っており、ダーカー消去という目的を達するならばより優れた手段だと言えよう。しかし星の環境を破壊し、無用な殺生を行うその手段をMONOは受け入れることは出来なかった。
「さようなら消しゴム。戦闘用文房具市場は我々ZEBRAの物だ」
 テレパイプを足元に出現させ、彼女は上空に待機していたキャンプシップに帰還した。MONOは文房具メーカーであるゼブラが、同じくHBSを開発しているらしいという出所不明の情報は持っていたが、この出会いがその情報を確かなものへと変えた。